- はじめに
- 幼少期と学生時代(1946-1970)—「アメリカの郊外と夢」
- 映画監督としての台頭(1971-1985)
- 伝説の確立(1986-1999)——「夢と現実の境界線」
- 『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』(1992)
- 21世紀のリンチ(2000-2020)——「夢の迷宮へ」
- 『Crazy Clown Time』で音楽アルバム発表(2011)
- 続けて『The Big Dream』を発表(2013)
- 『ツイン・ピークス: ザ・リターン』で待望のカムバック(2017)
- Netflix限定で短編を配信発表
- スティーブン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』に出演
- アーティストとしての顔
- YouTubeにて天気を伝えるコンテンツを配信
- 番外編 – 2005年に【デヴィッド・リンチ財団】を設立
- おすすめドキュメンタリー映画
はじめに
映画監督、脚本家、画家、俳優、ミュージシャン、サウンドクリエイター、などのアート表現によって、さまざまな人に影響を与えてきた【David Lynch / デヴィッド・リンチ】が、惜しまれつつ、2025年1月15日に死去しました。(享年78歳)

出典:iMDb
今回は、そのリンチがどんな人生を歩んできたのかについて、振り返っていきます。
幼少期と学生時代(1946-1970)—「アメリカの郊外と夢」
■1946年、アメリカ・モンタナ州ミズーラ生まれ
研究員の父と英語教師の母のもとに生まれました。幼少期は引っ越しが多く様々な土地を転々としたそうです。
■幼少期の田舎生活
リンチは、幼少期にアメリカの北西部の田舎で自然に触れて育ったことが、のちのツイン・ピークスなどの作品に影響を与えていると言及している。
■美術に興味を持ち、アートスクールへ進学
リンチが子供のとき、当時の友人の父親がアーティスト(画家)であることを聞き、そこからアーティストへの道が開けていった。
米コーコラン・スクール・オブ・アーツやペンシルベニア美術アカデミーを経て、絵画を学びにオーストリアに留学するが、街並みがキレイすぎて(笑)、アメリカに戻る。
その後、友人のジャック・フィスクと共にフィラデルフィアの美術学校に通うため、フィラデルフィアに移住。
■フィラデルフィアの荒廃した環境が彼の芸術観に影響を与える
のちにリンチは、フィラデルフィアでの生活がインスピレーションに繋がったと語る。
当時のフィラデルフィアは、薬物や暴力が蔓延していたらしく、狂気の街だったそうで、その中に身を置いてアートを追求することに、リンチらしさを感じてしまいます。
画家を目指していたが、ある日、絵画が動くという体験をしてから映像表現にシフトしていく。
■初期の短編作品
『Six Figures Getting Sick』
制作年: 1967年
上映時間: 約4分
もともと画家志望だったリンチが、絵が「動く」ことに魅了され、映像制作へ移行するきっかけになった作品。
『THE ALPHABET』
制作年: 1968年
上映時間: 約4分
当時の妻であった、ペギー・リンチが出演した作品で、シュールかつ独特な感性が発揮された映像アート。
『The Grandmother』
制作年: 1970年
上映時間: 約34分
制作: AFIの支援を受けて制作(1万ドルの助成金)
実写とアニメーションが交錯し、夢のような不気味な映像美を生み出している作品。このころから、暗闇や不穏な効果音の効果をうまく使っており、リンチワールドの原点を見ることができる。
映画監督としての台頭(1971-1985)
初の長編映画「ERASERHEAD / イレイザーヘッド (1977)」
リンチの初長編映画となった作品で、リンチ自身が『自身の作品の中で最もスピリチュアルな映画』と語っている。

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制作に約5年の歳月が掛けられ、制作資金繰りに苦労したそう。
初上映された時、観客がわずか25人しかいなかったが、その内24人がリピートしたという逸話があり、カルト的人気を誇った。
「Elephant Man / エレファント・マン (1980) で商業映画界へ
リンチ自身でない脚本に挑戦した初めての作品で、アカデミー賞に8部門ノミネートされるなど、アメリカのみならず日本でも大ヒットした。(リンチ34歳)

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この映画が制作されるいきさつが好きなのですが、下記の動画で見れますので是非。
デューン/砂の惑星 (1984) の失敗と、スタジオシステムへの幻滅
リンチ自身も『失敗』だったと語る大予算の大作作品。

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現在、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督でリメイクされていますが、これの元となる映画です。
この作品ではリンチにファイナルカット権が与えられず、大幅にカットされ本望ではない仕上がりになった。
だが、この作品を経て、自身が制作の権利を獲得することにこだわり、のちの名作品の布石となったことも事実。
伝説の確立(1986-1999)——「夢と現実の境界線」
「BLUE VELVET /ブルーベルベット 」(1986) で新境地へ
この映画をリンチ映画のフェイバリットに挙げる人も多い名作で、日常にある狂気を独特の美学で表現し、2面性を開花させた作品でもある。

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当初は、観客に受け入れられなかったようだが、リンチ作品にはありがちな、次第にカルト的人気を得ていった。
個人的に、ラストシーンがとても好きだ。
ツイン・ピークス (1990-1991) で社会現象を巻き起こす
連続ドラマとして、脚本家のマーク・フロストとタッグを組んだ、世界中で旋風を巻き起こしたドラマである。

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この制作の前に、マーク・フロストと「マリリン・モンロー」を題材にした脚本に取り掛かっていたが、うまくいかず頓挫していた。
その後、創作を続け、パイロット版の脚本が完成。リンチはマークと共に「なかなか良いぞ」と手応えを感じる。
そのパイロット版は、空前の視聴率を記録することに。
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セカンドシーズンの22話まで制作されたが、制作会社の都合もあり半ば中途半端な形で終わりを遂げる。
『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』(1992)
ドラマ『ツイン・ピークス』の前日譚として製作された映画。

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ドラマの核となるローラ・パーマー殺害事件の直前の7日間を描き、彼女の苦悩、二重生活、そして恐るべき運命が明らかになる。
公開当時は、カンヌ国際映画祭でブーイングを受けるほど酷評された作品ですが、『ツイン・ピークス』の物語を紐解く上で重要な作品であることは間違い無いでしょう。
「WILD AT HEART / ワイルド・アット・ハート」 (1990) でカンヌ映画祭でパルム・ドール受賞
ツイン・ピークスのシーズン中に制作していた映画。

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1990年度のカンヌ国際映画賞で悲願の最高賞である”パルム・ドール”を受賞する。
Lost Highway / ロスト・ハイウェイ (1997) ではよりダークな表現に
O・J・シンプソンズの事件(詳しくはこちら)に着想を得て、サイコジェニック・フーガという解離性障害をモチーフに作られた作品。

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リンチ作品の中で最もダークと言われている。
ストレート・ストーリー(1999)で感動物語を監督
前作(Lost Highway)とは打って変わって、真逆すぎて?想像もつかないようなストレートな感動ロードムービーを監督する。

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リンチとしては新境地とも言える作品で、胸にグッとくるヒューマンドラマだ。
21世紀のリンチ(2000-2020)——「夢の迷宮へ」
Mulhland Drive / マルホランド・ドライブ (2001) で最高傑作を生み出す
リンチ自身で脚本・監督を手がけた、リンチ作品で最も賞賛されたであろう作品。2001年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞。

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視聴者の中で様々な解釈がなされる難解な作品として知られている。
2016年にBBCが発表した、「21世紀の最高の映画100本」で堂々の1位になる。
インランド・エンパイア (2006) で完全に「夢」の世界へ
自費で制作したリンチ監督・脚本・撮影・編集の作品。出演者も豪華!

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リンチ作品の中で最も難解と言われている。
リンチ作品の常連俳優が多数出演しており、フィルムからデジタル撮影に移行し低予算で制作出来た作品。
『Crazy Clown Time』で音楽アルバム発表(2011)
映画の世界から一旦距離を置いていたある日、突如としてミュージシャンとしてのアルバムを発表する。

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まさに、リンチワールドともいうべき、実験的であり退廃的な世界観が漂う。ここから音楽の世界に浸っていくことに。
続けて『The Big Dream』を発表(2013)
続けて、2013年にアルバムを発表する。
系統としては同じだが、より歌にフォーカスが当てられている。

出典:Pitchfolk
リンチは、映画でも音響やサウンドトラックを自身で作曲することもあるぐらい、非常に音にもこだわりがあります。
『ツイン・ピークス: ザ・リターン』で待望のカムバック(2017)
衝撃のセカンドシーズンの終わりから、もうすぐ25年が経とうとしていた2014年に、リンチとフロストが再びタッグを組み、「ツイン・ピークス」の続編の製作が開始されました。

出典:RottenTomato
放送局とのトラブルがありながらも、2017年にショウタイム(アメリカの放送局)にて第1話が放送された。
全てのエピソードでリンチが監督しており、実質的に『18時間の映画』と呼ぶにふさわしい壮大かつ、大胆な精神性を帯びた別作品となって復活した。
Netflix限定で短編を配信発表
2016年にカルティエ財団のコミッションによって製作された作品の、リンチが制作、出演した短編『ジャックは一体何をした?』が、2020年にNetflixで配信開始。

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17分の短編で、猿が出てくる。
スティーブン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』に出演
2023年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』に出演し話題になった。

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名監督である、ジョン・フォード監督役で1シーンでのカメオ出演でした。
アーティストとしての顔
リンチは、映画を作っていない時には、アート制作をして展覧会に出したりもしていました。
出典:iMDb
筆者も2012年に渋谷で開催された展覧会に行き、そのアートを拝んできたのを思い出します。
YouTubeにて天気を伝えるコンテンツを配信
リンチは、『DAVID LYNCH THEATER』というYouTubeチャンネルを持っているが、2020年ごろからそのチャンネルで「David Lynch’s Weather Report」と題された、ロサンジェルスの天気情報を伝える約30秒の動画を配信を始める。
毎日行っていたが、2022年の12月16日を境に配信はストップしていた。
そのほか、書き切れないほどの音楽作品や映画作品への出演もあります。
番外編 – 2005年に【デヴィッド・リンチ財団】を設立
リンチは、長年行ってきた超越瞑想(Transcendental Meditation, TM)の普及を通じて、心の健康とストレス軽減を支援する活動を行うため、2005年に【デヴィッド・リンチ財団】を設立した。
自身も積極的に世界中を飛び回り、瞑想や創造性についての講演や音楽イベントを開催するなどした。
このTMだが、リンチは1973年にTMの瞑想を始めたと言われている。
これは、イレイザーヘッドを制作中のことだというが、それから1日も欠かさずに瞑想を行なっている。
おすすめドキュメンタリー映画
リンチのアートライフに迫ったドキュメンタリー映画があります。