デヴィッド・リンチと音楽の関係性

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はじめに

デヴィッド・リンチと音楽・音は切り離して語れないほど、リンチは音を大切にしていました。

インタビューでも、「抽象的な映画では、音がよりものを言う。」と言及するほどに、音へのこだわりを語っていました。

 

また、自身も音楽作品を発表したり、参加したりしていましたね。

今回は、リンチと音の関係性について深ぼっていきます。

リンチ映画と音楽の融合

リンチ作品での音楽が生み出す効果

リンチ作品でよく見られるのが、曲を使って登場人物の心情や状況を伝えたり、ということがありますね。

・イレイザーヘッドの『In Heaven』
・ マルホランド・ドライブの『Llorando』←泣き女の歌
・ツイン・ピークス・ザ・リターンの『No Stars』など

 

これにより、より抽象的に謎めいた表現を可能にしています。

アンジェロ・バダラメンティとのコラボレーション

リンチ映画を語る上で、映画音楽家アンジェロ・バダラメンティは重要人物です。


出典:FAR OUT MAGAZINE

・ブルー・ベルベット
・ロスト・ハイウェイ
・ワイルド・アット・ハート
・ストレート・ストーリー
・マルホランド・ドライブ
・ツイン・ピークスシリーズ

これらの作品でタッグを組んでいます。

ローラ・パーマーのテーマ

なかでも、ツイン・ピークスのサントラ「ローラ・パーマーのテーマ」の誕生秘話は感動ものです。

デヴィッド・リンチが情景を語る

バダラメンティがピアノの前に座ると、リンチは彼に映像ではなく「感情」を言葉で伝える方法をとりました。

リンチ: 「アンジー、深い森を思い浮かべてくれ。霧が立ち込め、風が木々を揺らしている。そこに悲しみと美しさがあるんだ…」
バダラメンティ: (静かに演奏を始める)

リンチはさらに語り続けます。

リンチ: 「今、ローラ・パーマーが現れる。彼女は純粋で美しく、でも何か影がある…。彼女は一人、深い悲しみを抱えている。」

バダラメンティはその場で感情を音にしながら、あの有名なメロディを即興で弾き始めたのです。

リンチ: 「すごくいい…。今、彼女は恐怖を感じ始める。何かが迫っている。逃げようとしている。でも逃げられない…!」

バダラメンティが緊張感を高めるコードを弾くと、リンチはこう言いました。

リンチ: 「そして彼女は再び闇へと沈んでいく…」

バダラメンティがメロディを落ち着かせると、リンチはこう言いました。

リンチ: 「完璧だ。もう何も変えなくていい。」

こんなやり取りがあったとバダラメンティは語っています。

 


リンチの音楽制作とアルバム活動

デヴィッド・リンチは自身も音楽を作る

リンチは、2011年と2013年に音楽アルバムを制作し発表しています。

Crazy Crown Time(2011年)

The Big Dream(2013年)

映像と同じく退廃的であり不可解で夢のような雰囲気が漂っています。

繰り返されるフレーズ、不気味な囁き、浮遊感のあるエコーの効いたボーカルが特徴的です。

リンチ作品における音響の魔法

「ノイズ」と「静寂」の使い方

音により観客の注意を引いたり、不安に駆らせたりするのが上手いリンチですが、『イレイザーヘッド』の工場音、『インランド・エンパイア』の不気味なサウンドスケープなど、作品を重ねるごとに巧妙になっていきました。

実質的な最後の長編作品であった『ツイン・ピークス・ザ・リターン』では、音が重要な要素になっていたりして、底で響くような低音や、奇怪で奇妙な高音など、音でも楽しませてくれました。

これらのセンスは、リンチが映像を始めた当初から発揮されていました。

リンチが参加した音楽作品

リンチは、音楽アーティストをプロデュースしたり、ボーカルで参加したり、様々なプロジェクトに関わっています。

その一部をご紹介します。

① Floating into the Night – Julie Cruise(1989)

・リンチが全曲の作詞を担当し、バダラメンティが作曲。
・『ツイン・ピークス』で使われた**「Falling」「Into the Night」**などを収録。

ツイン・ピークスのサントラとしても聴ける。

② The Voice of Love – Julie Cruise(1993)

・ リンチ&バダラメンティが再び全面プロデュース
・『ローラパーマー最期の7日間』の楽曲が含まれる。

③ Lux Vivens – Jocelyn Montgomery & David Lynch(1998)

・ 12世紀の修道女ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの音楽を現代風にアレンジ。
・ 実験的なアンビエント&ドローンサウンド。

④ Dark Night of the Soul – Danger Mouse & Sparklehorse(2010)

リンチが数曲でボーカルを担当。
・代表曲:「Star Eyes (I Can’t Catch It)」「Dark Night Of The Soul」

⑤ The Air Is on Fire – David Lynch(2007)

・自身の美術展『The Air Is on Fire』に合わせて制作したサウンドスケープアルバム。

CELLOPHANE MEMORIESCHRYSTABELL & DAVID LYNCH(2024)

・「ツイン・ピークス・ザ・リターン」にも出演していた、クリスタ・ベルとのコラボレーション作品

おわりに

デヴィッド・リンチにとって、音楽とは「もう一つのストーリーテリング」と言えますね。

映像でも音楽でも、それはリンチにとって、アイデアを翻訳するための手段でしかないのでしょう。